ぶつけるのではなく、届ける言葉を選ぶ

怒りに巻き込まれずに、必要なことを伝える——怒らずに伝えるコミュニケーション術

「あ、また言い方がきつくなってしまったかも…」
「冷静に言うつもりだったのに、イライラが顔に出てしまった…」

指導や注意をするときに、そんなふうに後から自己嫌悪になることはありませんか?
伝えたいのは“怒り”ではなく、“必要なこと”のはずなのに、
感情が先に立ってしまうと、相手には「怒られた記憶」しか残らない——
それはとてももったいないことです。


怒らずに伝えるための第一歩は、「怒りを主語にしない」

感情の勢いのまま伝えようとすると、どうしても言葉が攻撃的になってしまいます。

たとえば、
「なんでそんなこともできないの!」
「前にも言ったよね?」

という言葉は、怒りをそのまま相手にぶつける“感情の主語”です。
でも、そこで少し視点を変えてみます。

「○○の確認が漏れていたみたい。次からはどうする?」
「繰り返しになってしまうけれど、大事なことだからもう一度伝えるね」

このように、怒りの代わりに「目的」や「事実」「未来の改善」に主語を置くと、
伝える言葉に“冷静さ”と“誠実さ”が宿ります。


伝える前に、自分の内側を整える

怒りが湧いたとき、その場ですぐに伝えようとするのは避けたいところです。
大切なのは、“今、自分は何に怒っているのか”を明確にすること

怒りの奥には、必ず「期待」や「大切にしたい価値観」が隠れています。

たとえば──
・「時間を守ってほしかった」
・「報連相がきちんとされるチームでいたい」
・「部下の成長を心から願っている」

こうした“本当に伝えたいこと”に立ち返ることで、
言葉は自然とまっすぐで、穏やかになります。


怒らずに伝えるコツは「◯◯◯メッセージ」

怒りをぶつけずに、でも必要なことを伝える方法として、よく知られているのが
「I(アイ)メッセージ」です。

たとえば、

「ちゃんとしてよ!」(YOUメッセージ)
→ 「報告がないと、私は少し不安になるんだ」(Iメッセージ)

「やる気ないの?」(YOUメッセージ)
→ 「頼ってほしいと感じているよ」(Iメッセージ)

主語を「あなた」ではなく「私」にすることで、相手の防衛反応を抑え、
感情の共有ができるようになります。


怒りの代わりに“信頼”を伝えよう

怒りは一瞬で人の心に壁をつくりますが、
信頼の言葉は、少しずつその壁を壊していきます。

「あなたならできると思っているからこそ、伝えています」
「一緒に成長していきたいと思っているよ」

そんな一言があるだけで、相手の受け取り方は驚くほど変わります。
感情的なやりとりではなく、信頼ベースのコミュニケーションができると、
関係性は一段深まります。


怒らずに伝えることは、“強さ”ではなく“スキル”

「私は感情的になりやすいから…」とあきらめなくて大丈夫です。
怒りに巻き込まれず、必要なことを穏やかに伝えることは、
誰でも練習すれば身につけられる“技術”です。

感情に任せるのではなく、意図を持って“伝える”。
そんなリーダーの姿勢が、部下の信頼を育て、右腕を育てていきます。


次回は、
「感情的になってしまったときのリカバリー術」
についてお届けします。

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元・国土交通省 航空局勤務。 航空保安無線施設の維持管理、工事監督、設計・積算業務を20年以上担当し、現場リーダーとして数多くのチームマネジメントと人材育成に携わる。 その後、航空保安大学校にて教官として後進育成に従事。プロジェクトマネジメント研修をゼロから立ち上げ、現場視点に立った研修スタイルに定評がある。 現在は、「育てるのが苦手な現場リーダー」の支援をテーマに、人材育成・チームビルディング研修・コーチングを実施中。 「理論だけで終わらせない、“使える育成”がモットーです」