日本のデジタル力が振るわないのは“数学嫌いの大人”が増えたからなのか
日本のデジタル力は、韓国、中国、マレーシアなどよりも低くなっています。
一方で、15歳を対象にしたOECD(経済協力開発機構)の学習到達度調査「PISA」の2018年版では、日本の「数学リテラシー」は世界トップレベルです。
2003年度をピークに大学院博士課程への進学者は減り続け、日本の科学研究力低下の大きな原因と見られています。
政府や産業界が「数学」に力を入れ始めた
ところが、政府や産業界が「数学」に力を入れ始めたのです。デジタル化が進む中、数学の知識や思考法が、AI(人工知能)、ビッグデータなど、これからのビジネスや生活に不可欠になっているからです。
グーグル、アップルなどの「GAFA」と呼ばれる大手IT企業を生み出した米国では、10年ほど前から人気職業ランキングの上位を「数学者」「データサイエンティスト」などの数学関連が占めています。
2021年6月、ゲームメーカー・セガのツイッター投稿が話題になりました。
「サインコサインタンジェント、虚数i…いつ使うのだと思ったあなた。実は数学は、ゲーム業界を根から支える重要な役割を担っているのです」と発信、社内勉強会用の数学資料も無料公開しました。
2021年7月、経団連と数学研究者が、「数理活用産学連携イニシアティブ」を立ち上げ、10月には、NTTが基礎数学の研究組織「基礎数学研究センタ」を新設しました。
AI、ビッグデータ、自動運転、ネット検索、暗号通信、画像処理など、デジタル化のさまざまな機能や仕組みは数学抜きには存在しえないのです。
「GAFA」と呼ばれる米大手IT企業や米ベンチャー企業が、数学や物理を学んだ優秀な人材を集めているのはそのためです。
もっと数学を!
経済産業省は2019年の報告書「数理資本主義の時代~数学パワーが世界を変える」で、「第四次産業革命を主導し、さらにその限界すら超えて先に進むために、どうしても欠かすことのできない科学が、三つある。それは、第一に数学、第二に数学、そして第三に数学である!」「デジタル技術の動向は数学が左右している」を発表し、世間を驚かせました。
経産省が「もっと数学を!」と言いたくなるほど、日本のデジタル力は振るわないのです。2021年9月にスイスのビジネススクール「IMD」が公表した2021年の「世界デジタル競争力ランキング」によれば、日本の総合順位は28位で、18年以降、右肩下がりが続いています。
これは、子供時代の数学力がデジタル力へと結びついていないからです。
「下手に理系に進むと損をする」という考えを拭いさらないと数学力は育ちません。
IT関連や金融業界などで理系出身の経営者が登場したり、高いデジタル技術や能力を持つ新卒社員に年収1000万円を提示したりする企業も現れてきました。
こうした追い風を生かし、優秀な数学人材を育て、日本のデジタル力を向上させる、という好循環につなげていきたいものです
政府は、短期間で実用や産業につながる成果を生む研究に手厚く予算をつけてきましたが、基礎研究には冷たいのです。数学の場合は、長い歳月を経てIT社会を支える暗号通信を生むなど、予想できない「化け方」をすることがもあります。このような芽をつぶさない評価について、産官学でもっと真剣に検討すべきでしょう。
世の中のあらゆることを表現できるのが数学です。
「下手に理系に進むと損をする」という考えは過去のこととなることでしょう。
(参考)
「デジタル力は中国、韓国以下」なぜ日本は”数学ができない大人”ばかりになってしまったのか
「下手に理系に進むと損をする」
https://president.jp/articles/-/53043
佐藤好彦
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